−浜松医科大学病院でのペインクリニック診療−

浜松医科大学医学部附属病院 麻酔科蘇生科  木村哲朗

 

以前は老練の医師が中心という印象だったペインクリニック学会も若い先生の参加が目立つようになり、近年のペイン領域への関心の高さを実感します。浜松医大麻酔科 (以下、当科)では『患者さんにとってより痛みの少ない明日へ』を診療理念に掲げ、毎日ペインクリニック診療を行っています。大学病院の特性上、他施設・診療科で痛み治療に難渋した症例を紹介されることが多く治療が一筋縄ではいかないこともありますが、定期的にカンファレンスを開催して情報共有し、チーム全体で治療方針を検討しています。

今回は当科ペインクリニック診療の特色と取り組みについてご紹介したいと思います。


1. 充実した診療設備

ペインクリニック外来にある計13台の診察台はいずれも電動で高さ調節が可能で、診察や神経ブロックなどの手技を行うのに最適化されています。

外来専用に高性能超音波診断装置が2台常備されているほか、従来使用のものに加えて新型で小型かつ軽量の神経熱凝固装置を導入しています。

手術室や透視室も至近で透視下ブロックへのアクセスは良好です。特にハイブリッド手術室ではコンビームCT(被爆量少なくCT様画像の構築が可能)を利用して、透視下ブロックをより正確かつ安全に行う試みに取り組んでいます。

コンビームCTを利用した穿刺 

2. 高度なインターベンション治療

高周波熱凝固法・パルス高周波法

新旧の神経熱凝固装置を駆使しての高周波熱凝固法・パルス高周波法を透視下はもちろん外来ベッドサイドでも患者負担を軽減して安全に施行しています。

硬膜外腔癒着剝離術

当科では全国に先駆けてRaczカテーテルTMを用いた硬膜外腔癒着剝離術を導入しています。導入に当たり同治療法の先進国である韓国の病院見学、また米国ダラスでのカダバー (ご献体)ワークショップに参加して治療法の開発者であるGabor B. Racz先生から直接指導頂くことで手技習得に努めました。現在では、同治療法は当科を代表する手技となっています。

カダバーワークショップ後の懇親会にてRacz先生と

脊髄刺激療法(SCS

CRPS(複合性局所疼痛症候群)やFBSS(脊椎術後症候群)などの重度な神経障害性疼痛に対しては脊髄刺激療法(SCS)も行っています。当科は静岡県内でSCSを実施できる数少ない施設の一つです。

緩和領域のブロック

麻酔科医がもつ痛み治療技術は、緩和領域でもその効果が発揮される大きな武器です。スタッフが毎週の緩和チームカンファレンスに参加し、ブロックの適応症例など見逃すことがないように細心の注意を払っています。

内臓神経ブロックに代表される透視下ブロックのほか、ベッドサイドでの超音波ガイド下神経ブロックも積極的に行い、少しでも痛みに苦しむ方のお役に立てるように日々診療を行っています。 

3. 漢方治療

痛み診療では様々な角度から治療アプローチを検討します。NSAIDsやオピオイド、抗うつ薬などの内服治療、神経ブロックなどのインターベンションだけがペインクリニック診療ではありません。漢方薬が驚くほど著効する症例を経験することも少なくありません。

20214月からは漢方指導医・専門医による漢方外来も開始します。

4. 教育の充実

超音波ガイド下神経ブロックセミナー

近年は日本麻酔科学会専門医試験の出題範囲に加わるなど、今や末梢神経ブロックは麻酔科医にとって必須手技の一つとなっています。2018年からは区域麻酔学会の認定医制度も始まり、この分野は今後さらに発展することと思われます。

当科では全国から神経ブロックの第一人者の先生を外部講師としてお招きして神経ブロックセミナーを毎年開催しています。セミナーで扱う内容は日常診療で頻用するブロックを中心に盛り込み、経験の浅い新人から豊富なベテランまで毎回好評です。

6回浜松Nerve Blockセミナーの様子

(左:横浜南共済病院の渡邉至先生を講師に招いてのハンズオン)

(右:聖隷三方原病院の三村真一郎先生による座学)

カダバーワークショップ

2019年度からは当科主催でのカダバー(ご献体)ワークショップも行っています。スタッフが国内外のカダバーセミナーに参加することで培ったノウハウ、全国のペインクリニシャンから得た助言が開催の土台となっています。実際に穿刺して解剖を行うことで得られる理解は、飛躍的に臨床能力を高めてくれることを実感します。

今後は透視を用いたカダバーセミナーを行うことも計画しています。

漢方セミナー

コロナ禍は私たちの日常を変えてしまいました。従来の顔を合わせての学会やハンズオンなどのセミナーの機会は激減しています。少しでも横のつながりを大切にしたいと考え、20213月には第1回麻酔科医のための漢方ミーティングを座談会形式で双方向オンラインライブ配信しました。麻酔科専攻を希望する初期研修医から麻酔科指導医まで、施設内外から多くの先生にご参加頂きました。

今後は腹診や切(脈)診などの診察方法レクチャー、漢方エキスパートを講師に招くなど魅力的なセミナー開催を継続できるように計画しています。

1回麻酔科医のための漢方ミーティングの様子
(左から佐藤恒久先生、野澤広樹先生、小林充先生、小林賢輔先生)

専門医などの資格取得

ペイン関連領域には様々な専門医や認定医資格が存在します。資格取得は知識・技術のブラッシュアップのほか、日常臨床へのモチベーション維持にも繋がります。

当科ではペインクリニック学会専門医5 名、区域麻酔学会指導医1名、認定医6名、臨床麻酔学会神経ブロックインストラクター2名、東洋医学会漢方専門医1名など、年々その数を増やして診療の専門性を高めています(20214月現在)。

希望の方には経験豊富なスタッフが各種資格取得を全面的にバックアップする体制が整っています。

おわりに

浜松医科大学附属病院のペインクリニック部門では大学病院という特殊性を最大限に生かして、高度な診療・研究・教育を行っています。

今後も患者さんの笑顔のためより良い医療を提供すべく、スタッフ一同となって日々の診療を行っていきます。